セロー250でユーラシア大陸横断 55

9月22日

9泊もしたドゥシャンベを出発です。これだけ停滞してしまうと出発するのにやや怖気づいてしまいますが、ホステルをバイクで飛び出すとすっきりとした爽快感があります。

つたない英語で人と絡むのがしんどくなってきていたので、やっと1人になれたというところでしょうか。1人旅中に人嫌いになってしまうと目も合わせるのも気だるくなり、そうなると持ち直すまで一苦労なのでほどよく寂しくなって自分から人に話しかけるくらいのコンディションを保っていきたいです。

ドゥシャンベから北上してウズベキスタンの国境を抜け、サマルカンドを目指します。
街中は大きくて綺麗な建物が並びますが、どこも箱ものだけ作って後はほったらかされていることが多いです。ショッピングモールなどに入っても結局なんでも売ってる田舎の商店のような小さい店がたくさんあるだけ。

市街地を抜けるためナビを起動すると有料道を通らねばならないようで気をもみましたが、
ゲートに並んでみると係員が大声で案内してくれてゲートの脇を通れました。2輪は無料のようです。

綺麗で勢いのある川を抱く谷沿いを走っていきます。これまでの道のりはなんだったのかというくらい道が綺麗。やがて正面にパミールで見たような見上げる高さの山が現れ、この旅で初めてトンネルを通ります。

このトンネルが非常に危険で、中はほとんどライトがないので一度曲がると2m先が見えないほどの暗闇。結局ヘッドライトが手に入らなかったので転ぶか当たるか轢かれるか、という状態で気が気ではありません。しかし交通量が多く止まることもUターンすることも出来なくて、ハザードをたきながら前の車のテールライトだけを頼りに闇の中を70k巡行。長いトンネルに差し掛かると前の車に置いて行かれてしまって、こわいごめんなさいこわい、とひたすら唱えながらハイビームに切り替えて上側を左手で押さえながらの走行。この旅1番のピンチでした。

国境までは300kmほどですが、出会ったライダーにきれいな湖を2つ教えてもらっていたので
1泊ずつ寄り道することにしました。舗装路をそれて川沿いのダートを走ると、湖から流れ出した川がすでに真っ青で期待が高まっていきます。

ブログでも何度この文字を使うのかというほど日常になりつつある崖上のダートを登っていくと、眼下に山に囲まれ、真っ青に光る湖面が見えてきます。パミール、ワハーンで肥えた目も思わず吸い寄せられる美しさ。

崖を下るとゲートがあり、キャンプをするなら1泊19ソモニの支払いとパスポートチェックが必要です。湖沿いは切り立った崖のダートが続き、キャンプ適地はゲストハウスが立っていて偵察がてら湖を半周。

やがて道が湖から離れてしまいますが、湖を囲む山肌を縫うように迂回して湖に戻れそうな道を発見。進んでみると木のトンネルのような林間のダート。荒野や山上の道もよいですが、森を味わいながらどこに続いているのかとわくわくできるこんなダートが1番好きです。日本の山を思い出しました。

林の先に青い湖面が見え隠れし、予想通り開けた入り江に出ることができました。しかし走りやすい道のせいかよく人が来るらしく、マナーの悪い野営跡だらけで興醒め。車も来てしまったので崖に続く道を登ってさらに奥へ。

崖を進んでいくと森に背後を守られた小さな入り江が見えてきます。周りの山も美しく、白い砂浜が光っています。思わず吸い寄せられるように荒れたダートをよたよた走りで切り抜けていくと、森の中を走り入り江に注ぐ立派な川が見えてきました。流れ込みのある入り江で野宿。素敵すぎます。

進みたい気持ちに釘を刺すように、文字通りチクりと痛みが走ります。触ると針のようにささる植物が消えかけた轍の上に大量に群生しているのでした。逃げ場がないためそれでも崖を下って林へ近づいていきますが、全身を突き刺され激しい痛みに襲われます。

なんとか下り切ると道は川にたどり着き、そこで終わっています。川越えをすればまだ進めそうな雰囲気ですが、ためしにと歩いてみると広い川幅の半ばでふともも辺りにまで水位があり、断念。水は氷のように冷えていて、汗をかくような日差しの中でも震え上がるほどでした。

がっくりきたところで疲れと空腹もやってきたのでしばらく休憩。諦めて先ほどの汚い浜に戻ろうとしますが、ここまで来たのだしと林の中に入ってみると小さな道を見つけました。轍はすぐに終わりますが、けもの道のように踏み跡が続く林の中を期待で胸をいっぱいに膨らませながら走っていきます。

踏み跡もなくなり、枯れた川のふちを越えて道のない林を転がるように抜けると思いが通じたのか、目の前にさきほどの白い入り江。報われました。しかし浜辺を見渡すと水着の男女と目が合ってお互いぎくりとします。どうやらどこかに車を止めて歩いてきていたようです。少しあいさつしたらそのまま帰っていき、1人の時間を取り戻せました。

文句のつけようのない野宿地です。中央アジアに来てからはまるで競うように絶景の野宿地が迎えてくれます。林と浜辺の間くらいにテントを張って、タープの下で湖面を眺めます。
日陰は涼しく穏やか。試しに湖に入ってみるとやはりさきほどの川と同じ冷たさです。

強い日差しが谷に隠れると波風がたち、それが収まると湖面が凪いで静水になりました。どこまでも続く波もいいものですが、海や湖はこの凪いだときが一番好きです。波があると広さを感じて、凪いだときは水の量に考えが向いて気が遠くなり、それが心地よくて落ち着くのだと思います。

夕飯にカレーリゾットを作ります。おいしく上がりましたが、宿のキッチンにウォッカを忘れたことに気付いて落ち込みます。道中にビールが見つからなかったので唯一の酒でした。こんな景色でお酒が飲めないのはひどい仕打ちです。

仕方なくコーヒーを入れて一服。林にたくさん枝を見つけたので今夜はたき火をして心の慰めとすることにしました。辺りが薄暗くなってきたころに火をつけて、シルエットになっていく対岸の山と青い空と一緒に眺めます。波が落ち着いてきたことによって辺りは静まり、さきほどまで聞こえなかったたくさんの音がやってきました。

湖に流れる川の音、風にゆられる枝の音、虫や鳥の声に、時折ぱちりと弾けるたき火の音が混ざります。

辺りが完全に暗くなると気温も落ちてきてたき火の温かいこと。森から背中にゆるく流れてくる空気がひんやりと気持ちがよく、肌触りのいい夜です。つめたさと温かさを味わっていたくてついつい薄着で長居してしまいました。

実は浜辺に熊の親子の足跡を見つけていて、火だけがたよりの暗闇が少し恐ろしいです。でもなんだか久しぶりに張り合いがあって、緊張するのと同時に少し楽しんでいる自分が居ます。

灰になるまでたき火をし、椅子から立ち上がると月も出ない空にたくさんの星。久しぶりに心地の良い孤独感に包まれていました。

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